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キテハーのひみつ
 南洋に浮かぶキテハー島は、その島唯一の大型動物キテハー鳥によってつとに有名である。
 みなさんもご存じの通り、キテハー鳥は翼の退化した頭頂1.5メートルほどの鳥類で、 その姿は首の太い駝鳥かエミューの如くである。ただし天敵のいないキテハー島に順応しているため、 前者二者の鳥とは違い足が遅い。不様によたよたと歩く姿はみなさんも映像で見知っていることと思う。
 このキテハー鳥の最大の特徴として、名前の由来となった鳴き声がある。「キテハー」「キテハー」 と鳴くのである。島の名の由来もこれだ。不格好に歩き、互いの顔をじっと見ながら 「キテハー」「キテハー」と鳴きかわす様子には、一種独特の愛嬌がある。
 このキテハー鳥には長らく知性がないと思われてきたが、実は最近の研究で極めて高い知性があることがわかった。
 これまでにも、「キテハー」「キテハー」と鳴きあって互いの顔を見つめる動作から、 彼らが何らかの情報交換をしているのではないかとの説はあった。しかし、彼らの「キテハー」という鳴き声を 採取して分析してみても、そのパターンには何らの一貫性も見つからなかった。 明らかに「キテハー」は言語ではないのである。幾人もの生物学者たちが試行錯誤を重ねたが、結果は全て挫折であった。 なるほど、彼らの「キテハー」を録音した音声を再生してみても、また、人間が彼らの泣き声を真似て「キテハー」 と発声してみても、彼らキテハー鳥は注意を向ける。しかし、それまでだった。こちらの顔(あるいはスピーカー)を しばらく凝視したのち、彼らは興味を無くしてそっぽを向いてしまうのである。
 だが、この「キテハーという声に反応して顔を向ける」という動作が鍵なのであった。 いまでは、「キテハー」という鳴き声は人間における「発言前の挙手」にすぎないことが明らかになっている。 キテハー鳥の口に当たる部分は目、耳に相当する部分は額なのである。
 キテハー鳥の額には、羽毛に覆われていない突起がある。これが、赤外線を感知する器官なのだ (同様の器官は、ある種の蛇も持っている)。そして、キテハー鳥の目には赤外線を発する仕組みがある。 つまり、彼らは「目」から赤外線によって「言葉」を発し、「額の第三の目」でそれを受容する。 これが、最新の研究で明らかになったキテハー鳥のコミュニケーション形態である。
 では、いったい「キテハー」という音声には何の意味があるのか――。 もちろん、「キテハー」にも重要な役割がある。それはこうだ。
 通常の生物には眼底に光を感じる紡錘体があるが、キテハー鳥はこの紡錘体にある種の酵素を持っている。 その酵素はある種の体内物質と反応して熱を発する。その時生じた赤外線を、レンズ体が光を集めるときと 逆の手順で前方へ照射する。ただしこの赤外線は、熱が生体を痛めては困るので極めて微弱である。 結果、彼らの赤外線の「言語」は顔の正面のごく限られた方向に発せられる、非常に指向性の強いものになる。 しかも、彼らの耳である「額の突起」はまた、顔の正面のごく限られた方向でしか赤外線を感知しない――。
 そこで「キテハー」である。彼らはまず、音波という全方向の通信手段で発言者の注目を集める。 すると、「キテハー」を聞いた者は発言者の方向に顔を向ける。顔と顔が向きあったところで、 発言者は目から赤外線で「話し」、聴取者は額でそれを「聞く」。聞き手は返事をするときに「キテハー」と鳴き、 さらに会話が続く。これがキテハー鳥の会話のメカニズムである。「キテハー」「キテハー」と鳴き交わす 彼らは、我々人間と同じく言語によるコミュニケーションをとっているのである。
 ところで、彼らの会話のシステムを理解した我々人類が、次には彼らとの会話を試みようとするのは当然である。
 彼らの会話方法がわかったばかりの現在は、いまだ手探りの状態を脱していないが、それでも彼らの赤外線通信が 単なる鳥のさえずりではなく「言語による会話である」と断定できるほどには、研究が進んでいる。
 はじめのうちは、ある研究者が試しにTVのリモコンの赤外線機能を使って「12チャンネル」を送信して、 発情したキテハー鳥に「キテハー!キテハー!」と鳴かれながら襲いかかられたようなこともあった (余談だが、その研究者は心身共に無事だった。ご心配なく)。現在では、ここには書けないほどの努力の結果、 簡単な会話が可能である。おおよそ4000語ほどの単語が赤外線パターンとして保存されており、「足下の石を見よ」 といった程度の会話ならば専用の機材をもって会話可能である。
 しかし、我々は彼らの会話形態以上に異質な、彼らの言語構造という壁に行き当たっている。 実際的な現在の状態を語る分にはまだ人類の言語に近いのだが、ある程度以上に抽象的な文章や、 文化的な要素が絡んでくると、我々とキテハー鳥の間の断絶が浮かび上がってくる。 たとえば、「ムヒョリリソ(固有名詞。赤外線の波形を無理矢理人間の可聴領域の音波に当てたもの)の モゲンポポッポがグッショメメキしたのでヤョスェムヮムヮズした。つまりケョポヵポヵメヶだね。」 といえば、日本語に訳すと「やあこんにちは」の「や」の部分でしかない。 彼らの言語は、赤外線という形態をとっており、時間当たりにおける情報の詰め込み具合が音波の比ではない。 すなわち、我々が「こんにちは」と発音する1秒ほどの時間に、100語ほどの単語を発声できるのである。 だが、彼らの脳とて我々のものと大差がない。情報を発信できる量に比べて、処理する方は人間と同程度なのである。 つまり、彼らは我々の百倍の単語を使った文章を発し、我々の1語と同じ意味を受け取るのである。 その100と1の齟齬は、何をもって埋められるか。それは、おそらく「要約」が近い。 発言者は、「故事成語とあらゆる種類の比喩とレトリックの詰まった400字詰め原稿用紙250枚分の小説」を朗読し、 聴取者はそれを聞き流して感じ取った印象を受け取る。
 不幸なことに、我々人類は、同じ地球上でもこれほどに相違のある存在と出会ってしまうのである。 願わくば、将来出会うかも知れぬ異星の知性体は、もっと我々に似ていますように!

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