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本の話/9度だけで済んだ

39階は砂漠だ。
砂漠にも色々な種類がある。
ただ乾燥しきっただけの土地もあれば、風が吹くたびに地形が文字通り一変する、そんな場所もある。
39階の砂漠は、砂しかない種類だ。見渡す限り砂。砂と空だけ。
そして日差し。酷暑。雲一つない空。太陽は中天にかかったまま動かない。39階は永遠に正午だ。
昼夜の別が無いせいか、39階に風は吹かない。
おかげで、砂漠に設置された太いパイプのようなものも、さいわい砂に埋もれてしまうということがない。風が吹かなければ砂も飛ばない道理だ。
地平線の果てから果てへと続くそのパイプは水道管。
40階の湖沼世界に始まった導管は、校舎の中を通り、階段をくだって、39階へと到る。
両階の非常口それぞれひとつと、階段ひとつを占めた導管の束は、砂漠世界に水をもたらし、 オアシスを作り、39階の砂漠世界に人が住むことを可能にするのだ。
 
直径2mほどの鉄製の円筒は、湿気がないせいか、錆びもせずに鈍色の地肌を晒している。
そして今、地平線まで広がる砂漠に横たわる水道管のかたわらを、二人の人影が歩いている。
両者とも頭まで覆う白い外套をかぶり、ひどく衰弱した様子でよろよろと歩を進める。
片方は長身だ。外套の下からうかがえる顔色は、砂漠の強烈な日の下で悪夢のように白い。 頭巾から幾筋かこぼれた頭髪も白。陰になった顔からときおりのぞく目だけが赤。白子(アルビノ)なのだ。
もう片方の人物は、小柄で、見たところ赤毛。年齢は五十がらみか。特徴ある鼻のおかげで、顔は鳥のような印象を与える。 ふうふう息を切らしながら、しきりに白子の方へ話しかけているが、長身の男の方は、その話に注意を傾けている様子はない。

「いやはや、なんという暑熱、なんという乾燥!  もうかれこれ半刻は、いや、1日ほども歩いているのではないか、なにしろほれ、太陽はまったく動かぬし、 時のはかりようもないのは事実だがね、それがし、懐中時計を持ってさえいれば、 時の感覚についてなにがしかの意見も言えたのだが、残念なことに時計は、あの糞忌々しい(おっと失礼) 晩飯に化けてしまいよった、というのも、それがし、当地での韻律に馴染んでおらぬかったせいで、 それさえなければ、あのような都にそれがしほどの詩人はおらぬから、かならず――おや」
 
赤毛の小男は歩みを止め、長身の白子の外套のすそを引く。
 
「人だ。人が見える。戦士殿、おぬしにも見えるか。 それがしは、熱気にやられたせいでまぼろしを見ているのではないかと疑っておるのだが」
 
「いや」と白子。「わたしの視力は、このようなとき、あまりあてにならない」
 
「それがしにはまだ見えるぞ。どうやらこちらに向かっている様子。 こちらも向こうに歩いているのだから、いずれ鼻つき合わせることになろうて」

「行こう。地図と水をもらえるかもしれない」

そして二人組は歩みを進めた。2へ進め。

近づいてみると、人影は二人組と同じような格好をした青年だった。
髪は黒。あまり日に焼けていないので、地元の住民とは思いがたい。 日除けの頭巾の下の顔は、微笑を浮かべているようだ。
 
「東洋人だな」
 
赤毛の小男が言う。白子の方は、ゆったりした外套の下で、腰の剣に手をかける。
お互いまで数歩のところまで近づいたところで、黒い髪の青年が口を開いた。
 
「こんにちは」
 
「こんにちは」と答える白子。「見たところ、旅人のようだが」
 
「ええ、旅人です。あなたがたも?」
 
「さよう、さよう、旅人だとも! だがそれがし、旅人である以上に詩人であって、かのパットニーの居留地を出て以来……」
 
「すまないが」白子が赤毛の男の話をさえぎって言う。「よかったら、水と地図を分けて頂けないだろうか。 それなりの代価は払えるつもりだが」
 
「なるほど。水と地図。でも、水ならここに」
 
青年は、微笑を浮かべたままかたわらのパイプを顎で示す。
 
「1キロほどの間隔で、蛇口があります。ひねれば、水はいくらでも」
 
「それは知らなかった。ところで、地図のことだが――」
 
「それが、ぼく、地図は一枚しか持ってないんですよ」
 
青年は器用に、笑ったまますまなそうな顔をしてみせる。
 
「だからあげられません。でも、このままぼくが来た方向に行けば、校舎がありますから」
 
「校舎か」と白子は、うなずいてみせる。「そこへ行けば、地図が手にはいるのかな」
 
「ええ。街もあるし。校舎ですから。ほら、かすかに白い線が空に向かって延びてるでしょう。 そんなに遠くないですよ」
 
「校舎というのは、塔のようなものなのか」
 
「塔というか――失礼、あなたは、校舎をご存じない?」
 
「そう、我々は――我々は、少しばかり記憶を失っていてね。とある魔術にかかって」
 
「なるほど。記憶を。魔術で」
 
「この地でも、よくあることなのかな」
 
「いや、よくあるのかもしれないが。 実はぼくも、似たような境遇でしてね――それでも、あなたがたよりはましなようだ。どちらへいかれるのですか」
 
「ある賢者によると、わたしたちの捜し物は、砂漠を越えて、68階に行けば見つかると聞いた」
 
「68階。じゃあ、校舎に行って階段を登れば行けますね」
 
「なるほど。校舎の階段を登ると。では、68階とは、さだめし地名ではなく、そのままの意味なのだろうな」
 
「ええ。ここが39階ですから――ほんとうに何もご存じない?」
 
「すまない。魔術のせいで頭が朦朧としている。――ところで、先ほどから空に見える鳥のようなものはなんだろうか。 ずいぶん遠く、大きいもののように思えるが」
 
「ああ、あれは竜ですよ」
 
「竜。竜が空を飛んでいるのか」
 
「それはそうです。竜ですから」
 
「いかにも」と白子。「竜なら空を飛ぶだろうな。わたしの故郷でもそうだ」 
 
「さて」
 
と、青年は口調を少し変えた。
 
「ぼくはもう行かなければならないのですが、あなたがたは大丈夫ですか」
 
「目的地への道のりも、水のことも聞いた。少し休んでから出発することにしよう。ご助言、感謝する」
 
「そうですか。それでは」
 
そして青年は、二人組の来た道を水道管沿いに歩いていった。二人のかたわらを通り過ぎるときも笑顔のまま。だが、白子は青年がゆるやかな外套の下に剣を握っていることに気づく。
 
「水や街がほんとうにあればいいがの」
 
と、青年がじゅうぶんに離れてから赤毛の小男が言う。この手の会話には白子の方が慣れていると踏んで、いままで口を挟まなかったのだ。
 
「ここの住民はみな、あのようににやにやと始終笑っておるのやら。 それがし思うに、あれはニッポニア人だな。言葉で分かったよ。韻を踏むには不向きな言語だ。 ニッポニアの詩人は詩作に頭を悩ませておろうて! いや、それがし、ディー博士からニッポニアのことばを 多少しか学んでおらなんだが、とにかく複雑な敬語用法と、母音過多の発音で――そういえば戦士殿、 おぬしのお国のふるい言葉に似ていなくも――」
 
「詩人殿」
 
「あ、いや、これは失礼――」
 
赤毛の詩人は、白子の過去に触れてしまったらしいことを悔やみながら、遠ざかっていく黒髪の青年に目をやった。 すでに、ゆらめく陽炎の向こうで、青年は風景と同化をはじめていた。
 
3へ進め。

その青年が君だ。
名前は加賀(かが)明一(めいいち)
君の憎しみは39階の太陽よりも熱く、君の心は39階の砂漠よりも乾いている。
ながらく地獄で呵責を受けていたが、このたび百年ぶりに肉体を得て復活した。
復活の目的は復讐。
君の愛する人を君の目の前で殺し、君自身も生きたまま地獄へと堕とした憎き怨敵、 七大委員長(セクンダデイ)が標的だ。
君はすでに生活委員長の北岡(きたおか)高人(たかと)を殺し、 次なる標的の蒲生(がもう)先太(せんた)の居場所へと向かっている。
君には契約しているデーモンがいて、その契約のおかげで、復讐が完遂されるまで死ぬことはない。
デーモンの名前はアリオク。復讐のデーモン。地獄で永遠に苦しむはずだった君を拾って現世に投げ上げてくれた、恩人でもある。 いや、恩人と言うより主人といえるだろう。君はアリオクに復讐行為を捧げるかわりに、生かしてもらっている。
そしてもう一柱のデーモンが、君が外套の下に佩いている剣に焼き付けられている。
デーモンの名前はニバス。地獄の道化師。地獄で君を責め続けていた獄吏だが、今は君が主人だ。
ニバスが焼き付けられている剣の名前は朔月左文字(さくげつさもんじ)。黒い刀身の太刀だ。
道化師たるニバスの能力により、朔月左文字に斬られた敵は笑いながら死ぬ。げらげらと笑いながら死んでいく。
その効力は柄を握っただけでも表れる。
たとえばさきほどの不審な二人組と出会っていたとき君が微笑を続けていたのは、外套の下で朔月左文字の柄をずっと握っていたからだ。
思い出せたかな?
 
思い出せたなら4へ進む。
 
思い出せないなら、「本の話/5本だ」をやってみるといい。
君の前回の冒険が記されている。

君の今の状況をおさらいしてみよう。
君は、10日前に9階の森林世界で復活した。
そして、すぐに仇の七大委員長(セクンダデイ)のひとりである北岡高人(きたおかたかと)を殺害した。
君が復活した時点で与えられた情報は、現在が転校歴106年であることと―― 君が地獄へ落とされたのが西暦2001年、すなわち転校歴6年だから、ちょうど100年後だ――、 君を殺した当時の七大委員長が、今また同じ顔ぶれで七大委員長を任じているということだ。
君は生活委員長の北岡隆人を殺したのち、彼の屋敷で一日をかけて現在の世界について学んだ。
そして9階を出て、ティーンズの場末の貧民街に潜伏し、残りの七大委員長たちの動向を探った。
100年の歳月をかけて権勢を伸ばしてきた七大委員長たちは、委員会の合議制で成り立っている現在の社会において、 まさしく諸王というべき立場と権利を有している。
面倒な人付き合いを避けて9階に隠棲していた北岡と違い、他の委員長たちは、 王侯にふさわしい警備と注目のなかで暮らしているだろう。
七大委員長を全て殺してまわるとなれば、なまなかな困難では済むまい……。
 
そんな状況の君は、保険委員長の蒲生先太(がもうせんた)が休暇で39階の 別荘に滞在しているというニュースを今朝の新聞で読み、これを好機と見て砂漠へ足を踏み入れたのだ。
その新聞では、一面が北岡の怪死を告げる報で埋まっていた。 荒らされた邸内と抜刀したまま斬殺された護衛の様子から、警察権を持つ風紀委員会は複数犯による押し込み強盗と判断しているようだが、 細切れになって見つかった北岡と斬り殺された護衛たちのすべてが狂ったように笑ったまま死んでいる(・・・・・・・・・・・・・・・・)ことから、 あるいはなにがしかの怪異現象の可能性もあると考えているらしい。
とにもかくにも、君としては終わった復讐に興味はない。今は蒲生先太をどうやって殺すか、それしか頭にないのだ。
蒲生先太。
彼が休暇という口実で、僻地の別邸で何をやっているか、君にはだいたい想像がつく。
君の生前から、蒲生先太は類を見ない好色だった。 度をすぎた淫蕩ぶりから、何度となく生徒会サイドの陣営を放逐されそうになったものだ。 とはいえ、保険委員長としての職務にはそつがなかったし、治療系の能力を持ったデーモンとの相性もよかったため、 転校歴6年の動乱集結まで保険委員長を任じていられたのだが――。
今にして思えば、蒲生が生徒会長の和泉志麻をみる目つきに気づいた100年前の時点で、彼を殺しておくべきだったと君は思った。
蒲生の歪んだ邪恋は、ついに和泉志麻(いずみしま)殺害するにまで到ったのだから――。
和泉志麻を――。
君は新たな怒りにぎりりと歯を食いしばり、殺意をおぼえて腰の朔月左文字(さくげつさもんじ)の柄を握りしめた。
たちまちニバスの能力が君に及び、君は歯をむき出して怒りと笑いの混じった壮絶な表情を浮かべる。
 
5へ進め。

「憎いか。加賀明一」
 
唐突に降って湧いた声。
君が目を上げると、一人の男が水道管の上を君の歩みと同じ速度で歩いていた。
いや、歩いているとは言いがたい。
砂を踏みしめて歩く君と相対的に同じ位置を保ちつつ、その男は一歩も歩いてはいない。
君は歩いている。男は歩いていない。君は動いていて、かたわらの水道管は君の後ろ後ろへと流れていく。 男は一歩も動いておらず、したがってその足下の水道管の、ある一点から離れない。
にもかかわらず、彼は君についてきている。男が足を動かさずに移動しているのではない。 砂漠に横たわる尋常の水道管と、君の歩みと同じ速度で前進する別の水道管とが、 同時に世界に存在している――としか言いようがない。
ありえざる状態、概念のうちにしか存在しえない状況――まさに怪異だ。
だが、それも当然。水道管の上に立っている(あるいは)水道管の上を移動している男こそ、 怪異そのもの。混沌の貴顕であり、剣のパトロンであり、あらゆる私怨の代弁者であり、復讐のデーモンであり、すなわち君の(ロード)である。
アリオク。それが彼の名だ。
 
「憎め、加賀明一。お前の憎悪をわたしに捧げろ。怨め、加賀明一。お前の怨嗟をわたしに献じろ」
 
ありえざる水道管の上に立つアリオクは、ありえざる色合いの三つ揃い背広を着て―― 黒にごく近い紫色から白にごく近い赤までの人の可視波長に属する全ての光を同時に発色している――、 ありえざる容貌――中天に懸かる太陽の影で顔が全く見えないにも関わらず同性をも魅了する美貌だと確信できる―― をしていた。
 
「ぼくは、あなたに言われずとも憎む。恨む。あなたは勝手にぼくの復讐を味わえばいい」
 
君はアリオクに返礼する。アリオクが望むのは崇拝でも敬愛でもなく、 ただ私的な復讐の思いのみ。君は正しくアリオクに礼を尽くしている。
 
「アリオク。この先に竜尾谷(りゅびや)という街がある。 そこに仇の一人、蒲生先太がいるらしい。奴を殺すにはどうすればいい?」
 
「わたしはそれを知らぬ、いとしいしもべよ。わたしのちからはわたしに捧げられる私怨復讐にささえられる。 わたしはお前に不死を約束できるが、それはお前の私怨が100年積もったゆえのこと。わたしはそれほど強力なデーモンではないのだ」
 
「そうか。期待はしていなかった。いざとなれば千回死んで一回殺せればいい。不死で十分」
 
「だが心せよ加賀明一、わたしにも忠告はできる。このさき、わたしより強力なデーモンの気配がする。 おそらくはソロモンの72柱か、それに類する級の」
 
「それは――」
 
と頭上のデーモンを振り仰ぐ君の目に、アリオクはうっすらと消えつつ最後の木霊を残す。
 
「さらばだ。加賀明一。よい復讐の旅を――」
 
君はため息をつきつつ視線を前方に戻す。砂漠の果て、かろうじて見える水道管の先に、 黒っぽいかたまりのようなものが見え始めている。どうやら目指す竜尾谷の街は近いようだ。
 
6へ行け。

竜尾谷(りゅびや)という街は、竜の死骸を解体する者たちが集まった街だ。
39階の砂漠世界には竜が住む。竜は砂漠の空高くを生涯飛び続け、死んで地に墜ちる。 あるいは地に墜ちて死ぬのか。竜の生態は今もって謎であり、どのように生まれ、どのように暮らし、どのように繁殖するのか まったくわかっていない。
そもそも、竜が生き物なのかどうかすら怪しいのだ。
だが、謎のかたまりである竜にも、わかっていることがいくつかある。 竜の死骸は利用できるのだ。骨格からは希少金属を含むさまざまな鉱物。 豊富に取れる肉は加工すれば様々な種類の合成樹脂(プラスチック)の元になる。 血液は化石燃料そのもの。
竜尾谷に住む人々は、竜の死骸を解体して人類社会に還元する巨視レベルのバクテリアなのだ。
竜尾谷の竜は転校した人々が発見した最初の竜の死骸であり、いまだに最大のものである。 現在の解体ペースでも、優にあと50年は資源を提供し続けるだろう――。
 
その竜尾谷の街に君はいる。
永遠に正午である39階では、竜の解体作業は24時間のあいだ止まらない。 解体の鎚音は町中に響いて静まることはなく、汗を流した人夫労足たちが貨物を抱えて行きすぎる。 頭上に何本もそびえ立つ、黒ずんで湾曲した先細りの塔のようなものは、竜の肋骨だろう。高さは50mほどか。
街の臭いが、旧世界のガソリンスタンドに似ていることに君は気づいた。
さて、どうしようか?
 
手近な飯場に入り、蒲生の屋敷について尋ねるなら22へ進め。
時間が惜しいと考えて、今となりを歩いている通行人を捕まえるなら9へ進む。
それとも、街の中を適当に歩いてみるか。それなら35へ行け。

君は扉が開く次の機会を待った。
扉が開いた瞬間にすかさず駆け込めるように、なるべく近くの物陰に身を潜める。
乱雑に資材が組み上げられている竜尾谷の街並みは君に味方した。
君が機会をうかがう数時間の間に何度か見回りが君の前を通りすぎたが、幸いにも見つかることはなかった。 純粋に運がよかったのか、あるいはアリオクの加護か。
そして、ついにその機会は訪れた。
使用人と思しき小男が扉を敲いたところで君は物陰から離れ、面通しが終わって扉が開いた瞬間、 君は猛然と駆け出した。何事かと振り返る小男を一刀で切り捨てる。
衛士が一人、扉を開けて飛び出てきた。扉越しでは何が起こったのかわからなかった様子で、まだ抜刀はしていない。 君は衛士が抜刀する前に切りつける。32へ進め。
だが心せよ、まだ扉の向こうには後続がいるようだ。

君は扉に手をかけた。案の定、扉に鍵はかかったままだ。
朔月左文字を抜き、戸の隙間越しにねじ込む。 多々良(たたら)(はじめ)の打った最上大業物であるうえに、デーモンのニバスが焼き付けられている。 真鍮の錠前くらいなら()し斬れると君は踏んだ。
はたして、錠は、ギン、という音と共に断ち切れた。君は扉をそっと押す。
扉の向こうには簡単な詰め所のようなものがあり、まだ残っていたとおぼしき衛士が佩刀を抜いて構えていた。門番は一人だけではなかった。
君は舌打ちをする。こうなったら、不死の肉体をもって押し通すまでだ。君は無造作に歩みを進める。
45へ進め。

君はちょうど隣を歩いていた男に声をかける。
 
「すいません」
 
「は、はい? 俺?」
 
男が振り向く。気の弱そうな男だった。労働者には見えない。
 
17へ進め。

10
蒲生先太は第二次性徴を迎えたころから淫欲の徒であり、その情念は絶えたことがなかった。
異性とのロマンスを求めるに当たってはあらゆる努力を惜しまず、 思考のほぼ全ては下半身に繋がっていた。 もちろん日常世界から放逐されたあの転校の日以後もそれは変わらず、 むしろ慣れ親しんだ社会との隔絶によってより奔放になった。
保健委員長の任に着いていた彼はやがて生徒会長の和泉志麻に懸想するようになったが、 思いがかなわぬと知るとついには他の七大委員長と図って和泉志麻を殺害、デーモンへの贄とした。
和泉志麻の絶命の瞬間、蒲生先太は射精した。
そのときついでに加賀明一を生きたまま地獄へ投げ落とし、両者の犠牲でもって不老という恩恵を獲得する。
そののちは、戦犯として扱われながらも徐々に地位を向上し、数十年かけて保健委員長の座に返り咲いた。
そのころには、人々の記憶からは彼の過去の罪状は消え、 ただどのようにしてか手に入れた不老という能力への畏怖の念だけが残った。
こうして権勢を極めた蒲生は、ひそやかに、だが絶えることなく淫欲を貪った。
契約したシトリイのちからはそれを強力に支援した。
多くの美女美少女とあらゆる方法手段状況で交わったが、十数年するとそれにもいささか飽き、 新たな刺激を求めて老若男女さまざなものと交合し、飽きの小さな波が来るたびに趣向を変えた。
引き取って育てていた養女を誑しこんで味をしめたときは、 その少女に産ませた実の娘を育てたのちに犯した。
彼を信じていたものを裏切って悦に入ることもあれば、 シトリイのちからを使って彼に心酔させたものと和姦に及ぶこともあった。 デーモンとも寝たし、動物とも寝たし、死体とも人形とも寝た。
さすがにこれ以上はなにがあろうかと憂えていた彼であったが、 今ここに自分の命を狙う一世紀前の復讐者(・・・・・・・・・・・・・・・)という新たな可能性が舞い込んできた。
最悪の姦淫者である蒲生先太がこれに食指を伸ばさないわけがない。
 
蒲生はシトリイと共に加賀明一の心へと入り込んだ。
彼らがいつもやっていることだった。
すぐにこの報復者はこの俺のものになるぞ、と蒲生は思った。
 
君の心へ向かえ。

11
君は100年の地獄虜囚生活で脳細胞が焼き切れてしまったのか?
それとも砂漠階の真昼の炎熱で思考力が鈍ったのか?
39階の太陽は永遠に正午のまま動かないと何度も言ったはずだ。
いくら待っても夜など来るわけがない。
君の主人であるアリオクもいたくご立腹である。
彼が君との契約を破棄して地獄へ連れ戻そうとする前に49へ戻り、 別の選択肢を選びたまえ。
さあ、急ぐんだ!

12
君は屋敷の勝手口から侵入し、しばらくは誰にも見つからずに進んだ。
だが住人の多い屋敷のこと、すぐに姿を見られ、帯剣した衛士たちと何度も切り結ぶこととなった。
幸運なことに君が戦わざるを得ない相手は全て刀を持っていたので、 受けた傷は鋭利な刃物による創傷だけだった。 おかげで、何度か君は死んだがすぐに復活することができた。
失血がひどくて歩みが遅くなったときには、みずから心臓を突いて笑い死に、 速やかに復活を果たして走り出したこともあった。
そして、蒲生がいる地下室の扉を守るデーモンを2度死んでから倒し、 ついに君は蒲生先太と相対した。
竜尾谷に到着する直前、千度死のうとも蒲生を殺すと君はアリオクに誓ったが、 さいわいたったの九度だけで済んだ。
31へ進んで決着をつけよ。

13
君は正門の前で立ち止まった。
案の定、門衛が1人近づいてくる。
 
「おい、何の用だ?」
 
君は――
すッとぼけるなら30へ行け。
それでも黙っているなら46へ進む。

14
君は地面に叩きつけられて死んだ。

君がまだ復讐の念に駆られているのなら28へ行って復活せよ。

15
君はなるべく無害そうな声音をひねりだし、「お知らせしたいことがあって、蒲生さんにお会いしたいのですが」と言う。
 
「用件を伺いましょう」と門衛は突っぱねる。
 
「ですから、用件は、お知らせしたいことがある、ということで」君は笑みを絶やさない。
 
「お話の内容をお聞きしてもよろしいかな」門衛は硬い表情のままだ。
 
「弱ったな……。本人にしかお伝えできないような内容なんですよ」君も穏やかに食い下がる。
 
「失礼だが、不確かなままでは蒲生委員長に合わせるわけにはいきません」硬い。
 
だが君の意志の固さも相当なものだ。「ですから、ほら、あの人のことでしょう?  こんなにお天道様が高いところでは話せないようなお話というのも、多々あるわけで……」
 
「む……」
 
さすがに門衛の表情もわずかにたじろいだ。蒲生先太は色魔であり、最悪の性獣である。 その事実はいくら隠そうとも、100年のあいだに暗黙にして周知のものとなっている。 現世に舞い戻ってからの数日でも、君はその手の噂を幾度も聞いている。ティーンズの貧民街では知らぬものはいなかった。
あの淫欲の徒がまた何やかの下卑た遊びを裏でしているのだと、目の前の門衛に思わせればいい。
 
「承知しました。一応、取り次いでみましょう」
 
ついに門衛は折れた。蒲生先太はみずからの色欲の業で破滅するのだと、君は叫びたかった。
 
「ところで、名前は何とお伝えすれば?」
 
42へ進め。

16
「アリオク!」君は叫んだ。
 
返事はない。
 
「アリオク……?」
 
返事はなかった。
 
「なるほど、復讐を司るデーモンの。道理で」
 
蒲生が君に近づく。君は手に持った太刀を振り下ろそうとするが、 手が動かない。足も動かない。君の顔から笑みが消えた。笑える状況ではない。笑えない。
朔月左文字を握っているのに笑えない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
 
「どう思う? シトリイ」蒲生が背後で鎖に繋がれている女を振り向いて言った。
 
女は美しい顔を美しい微笑で飾ったが、すでにその顔は人のものではなく、 金と琥珀の毛並みに完璧なるまだら模様を浮かべた豹。 手足を繋ぎとめていた鎖はもはや戒めの用を果たしておらず、 鷲の翼を持つ均整の取れた肉体に絡みつくさまは官能的な一種の装飾だ。
気づけばその姿は人間の何倍にも膨れ上がり、 地下室の蝋燭光を受けて聳え立ち、 この場の支配権を誰が握っているか雄弁に語っている。
 
「もちろん問題ではない。私が相手では」豹が答えた。
 
シトリイ。ソロモニックデーモン。地獄の大いなる王族。人の情欲を司る美しい豹。
君は知っている。
この美しいデーモンに比べれば、アリオクなどは小物にすぎない。 たとえ君の常軌を逸した復讐心がアリオクにちからを与えていても、 デーモンとしての格の差は覆しがたい。 ましてや、情欲の念を糧とするシトリイがあの色魔(・・・・)、 100年遊蕩しても尽きぬ性欲を持つ蒲生先太と契約しているのならば、彼我の力の差は絶対だ。
無論ニバスなどは話にならない。文字通り豹の前の猫だ。いや、それ以下か。
 
「はじめまして、報復者の君。私がシトリイだ。よろしく」
 
デーモンが甘い息と共に囁く。
したくはなかったが、君は勃起した。
 
10へ進め。

17
「蒲生さんの所へ行きたいんですが」と君はたずねた。
 
「ああ、それなら」
 
男は腕を伸ばして方角を示した。
 
「あっちのほうにでっかい屋敷があるから。行けばわかるよ」
 
「はあ」
 
そんな曖昧な説明で本当にたどり着くのだろうか。
君のそんな疑念は声に表れたらしく、男はさらに言葉を続ける。
 
「いや、本当に行けばわかるって。この町にはでっかい屋敷なんてひとつしかないし、 あのあたりに行けば嫌でも目に付くから。ちょうどミギサンの真下だよ」
 
「ミギサン?」君の知らない言葉だった。
 
「右の第三肋骨」
 
「ああ、なるほど」
 
竜尾谷のスラングのようだ。
君は礼を言って、そのあたりへ行くことにする。
 
「ありがとう。助かりました」
 
「いやいや。お前さんの行く先に竜がいますように」と去り際に男が言う。
 
これは聞いたことがある。39階風の別れの挨拶だ。
ともあれ、目的地へのめどがついたので、君は先を急ぐことにする。
 
19へ進め。

18
「タイミングよく門をくぐれってのか。ふざけるな」君は手近にあった物を猫に投げつける。
だが猫の姿をしたデーモンは器用にそれをかわす。腹が立った君は手当たり次第に物を投げつける。 ニバスはそれらのつぶてをことごとく避けるが、宙に飛び上がったところを狙った君の鉄パイプが命中し、 跳ね飛ばされて窓から外に落ちる。
 
「今ので閃いたぞ。ご主人」
 
「今度は何だ?」足をを引きずりつつ戸口から戻ってきたニバスに君が尋ねる。「つまらん冗談はもううんざりだぞ」
 
「ご主人も宙を飛んで入ればよい」君はニバスに投げるための物を手探ることにする。 だが、「待て、これは冗談ではない」とニバスがとどめる。
 
君は物を探すのをやめて考える。
 
「なるほど、ちょうど真上に竜の肋骨が張り出していたな」高さは50メートルほどもあっただろうか。 「落ちたら死ぬな」
 
「死ぬだろうな」猫が笑う。

「それで行こう」

47へ進め。

19
君は教えられたとおりに歩き、難なく蒲生先太の屋敷を見つけることができた。
確かにわかりやすい。
竜尾谷の街の家々は、基本的に仮設といえる。 竜の死骸から切り出したありあわせの建材を組み合わせてできたものがほとんどだ。 鉱物質の柱と合成樹脂の板を寄せ集めたバラックといっていい。 竜の死骸から産出する材はほとんどが黒っぽくざらざらしていて、 正午の日射を猛烈に吸収する。定期的に打ち水をしていなかったら、 とても人の住めるしろものではない。
しかし、蒲生先太の屋敷だけは違っている。
まず広さが違う。寝泊りができれば充分といった風情の小屋が大半を占める景観で、 小さな市民球場ほどの大きさの敷地は明らかに浮いている。
材質も違う。蒲生の屋敷は黒ずんだ竜材ではなく、華やかな日干し煉瓦と漆喰と大理石。 他の家についている窓は吹きさらしのただの穴だが、蒲生邸の窓は透明度の高い板ガラス。
敷地を隙間なく囲う高さ3メートルほどの塀があるが、 その向こうには25階あたりから運んできたと思われる椰子に似た木が青々と茂っている。 庭には大きな池がありそうだ。
立地条件もいい。屋敷の部分はちょうど竜の肋骨の陰になっていて、実に涼しそうだ。 永遠に正午の39階では日が傾かないのだからまことに具合がいい。
つまり、贅を凝らしたお大尽の豪邸。
しかも、これで別荘なのだ。
蒲生先太は、世階(せかい)の7分の1を実質的に支配しているのだから、これは当然の享受なのかもしれない。
だが君にとっては当然ではない。
蒲生先太は卑劣な裏切り者であり、大罪人であり、速やかに地獄に落ちるべきである。
君は彼を殺したいと思う。
殺意をこめて朔月左文字の柄を握る君の顔に、ニバスの霊威が笑みを浮かばせた。
さて、とにかく蒲生を殺すためにも、君は行動すべきだ。
49へ進み、屋敷への侵入方法を探せ。

20
「ぼくの友人がこの中で働いているのですが、急いで知らせたいことがあって」君は答える。
 
「友人? 急ぎの用? いったい誰に用事があるんだ」
 
「誰と言うか、その……」君は口ごもった。だが、ここでうろたえては怪しまれる。 君は意を決して続けた。「鈴木という男に用があるのですが」 とっさに口をついたでまかせだったが、言ってから君は心配する。 君の生まれ育った社会では、鈴木姓は人口の多いありふれた姓だ。 だが、転校後のこの社会ではわからない。 現在の社会を構成している人々は、転校時の騒動を生き残った500人ばかりの生徒の子孫なのだから。 鈴木と言う姓が残っているともかぎらないし、それに君はここ100年ほど地獄にいたのだから、 もちろん今の人口における姓の比率などわからない。
鈴木がいたとしても、「鈴木は何人もいるが、下の名前は?」とでも聞かれたら万事休すだ。
 
だが、門番はしばらく黙ったあと答えた。「鈴木なら一人いるよ。どんな用件なんだ」
 
「それは……」君は機転を利かせる。「彼の母親が事故にあって危篤なのです。案内してもらえませんか」
 
小窓はばたりと閉じた。扉越しに声が聞こえる。
 
「鈴木は俺だよ。俺はお前と友人じゃないし、母親はおととし死んでいる。この嘘つき野郎が」
 
君は失敗したようだ。49へ戻って他の手段を探せ。

21
「こちらで雇っていただきたいのですが」と君は言った。
 
「そう言われてもねえ。俺にそんな裁量権はないし。弱ったなあ」
 
「どこかに空いている働き場はないのですか。なんでもしますから」
 
「人では足りているようだけど……。とにかく俺には決められないな。 執事さんにだって話を通さなきゃならないだろうし。 悪いけどよそを当たってくれよ。誰かの紹介状でもあれば別だけど」
 
君はどうする?
 
紹介状代わりに剣を叩き込むなら25へ進む。
裏門をあきらめるなら、ここはひとまず立ち去ろう。
屋敷の警戒を強めないために、君は演技を続ける。
 
「そうですか……。出直してきます」
 
「まあ、気を落とすなよ。この街は働き口ならいっぱいあるからさ」
 
慰めてくれる門番に心の中で呪詛を吐きながら、君は裏門を離れる。
49へ戻れ。

22
君は手近な飯場へ入った。
合成樹脂製の軒をくぐると、正午の日差しに慣れた目は店内を薄暗く感じた。
ティーンズの貧民街で手に入れた懐中時計によると、今はちょうど夕刻のあたり。 飯場の中は人影もまばらだった。君は主人らしき人物の正面、カウンター席に座った。
 
「お前さん、他階者(ヨソモン)だね。 竜尾谷には来たばっかりかい……」

主人が話しかけてくる。
 
「ええ。わかりますか」
 
と君。
 
「そりゃあ、そんな生ッ(チロ)い顔してりゃあね……。 水道の鉄臭くて温い水は飲み飽きたろう。兄さん、何か冷たいものはいかが……」
 
「ありがとう。頼みます。……あんまり、人がいないんですね」
 
「今はそういう時間でね。もうじき、Bシフトの連中の夕飯と、Cシフトの連中の朝飯で、えらく混み合うよ。 何か食べるなら今のうちに注文しておいたほうがいい」
 
バーテンが、レモンのような香りのする、氷の入った飲み物を出してくれた。 君はそれを半分ほど飲み干す。冷たく、うまかった。
 
「食べ物はいいです。知り合いのところに行く予定ですから」
 
「へえ。兄さんは知り合いを訪ねて来たかい……」
 
「ええ。蒲生先太(がもうせんた)のところにいると 聞いています」
 
「そりゃまた。ヒヘヘ」とバーテンは妙な笑い声を立て、「女かい……。会わせてもらえるのかね……」
 
「男だって、蒲生さんのところにはいますよ」
 
「そりゃそうだ。ヒヘヘ」
 
と、バーテンはまた妙な笑い声を立てる。
君は飲み物の残りを飲み干し、蒲生先太の別邸の位置を尋ねた。 そして、バーテンに北岡の財布から奪った新円札で勘定を支払い、蒲生の別邸に向かう。
 
19へ進め。

23
ギャッと叫んで蒲生はのけぞった。
君の赤黒い精神に直接触れてしまったのだ。
蒲生の精神は君の悪意の苦さと辛さで麻痺してしまい、君の敵意の鋭さと硬さで出血した。 君の害意の大きさと重さに押しつぶされ、君の殺意の熱さと冷たさで割れた。
君のデーモンは蒲生のそれに負けたが、君の精神は蒲生に勝った。
デーモンの糧になる情念の量では互角だったが、質が違いすぎたということだ。
 
「アリオク」
 
君は言うと、異界的な声がそれを引き取って続けた。
 
「これより私怨復讐の開始を宣言する」
 
蝋燭の炎がゆらめく。
右手に松明を、左手に斧を持った有翼の人影が部屋の全てを圧倒して立っていた。
遅まきながら心を取り戻した蒲生はシトリイの名を呼ぼうとするが、 アリオクの斧が頭部に振り下ろされたのでそれもかなわない。
蒲生の肉体には何らの損傷もないが、 かわりに蒲生とデーモンの間に繋がる契約の鎖が音を立てて断ち切れた。
君は剣を振り上げる。
君は笑った。
「ニャア」猫も笑った。
 
50へ行け。

24
「やあ、お勤めご苦労さま」
 
君は軽い笑顔を浮かべながら門衛に挨拶する。
君の笑顔は作り笑顔ではなく、道化デーモンのニバスが焼き付けられた朔月左文字を手に取っているゆえの衝動的なものなのだが、 門衛にとってはたいして違いがないようだ。
 
「どちら様か。用件を伺おう」とにべもない。
 
「蒲生さんに合いたいのですが」君は自然な笑みで応対する。
 
「蒲生委員長はただいま休暇中なので、危急でない限り校務(こうむ)はないはずだが」
 
門衛は警戒を緩めない。熱心な仕事振りだ。校務員(こうむいん)かもしれない。 警察権を持つ風紀委員の雰囲気がある。
君の次の言葉は――
 
「あれ、聞いてないの?」なら30へ進む。
「お知らせしたいことがあって」なら15へ進め。

25
君はすでに抜刀していた朔月左文字を持ち上げ、一息で小窓から突き入れた。
狙いはたがわず、切っ先は男の右目に突き立った。 手ごたえからすると眼底を貫通して脳にまで到達したようだ。 男は悲鳴と哄笑の混ざった断末魔の声を上げながら死んだ。
門番はいなくなったが、扉の鍵はかけられたままだ。
だが、すぐに鍵の心配をする必要はなくなった。 扉を開けて数人の衛士が君に殺到する。 君は太刀を振るって、まだ抜刀していない一人目の衛士に斬りかかる。
32へ行け。

26
君は目を覚ました。
体のあちこちに疼痛がある。 だが手足も首も繋がっているし、開いた傷口もない。 一度死んだあと、完璧に復活したようだ。
あたりを見回してみるが動くものは誰もいない。君が死んだ場所だ。
太陽がまったく動かない階なので時間経過はわからないが、 状況からみて死後長くても数分しか経っていないようだ。
敵はみな死んだか、生きていても手当てをするために屋敷へ引っ込んだらしい。
傷がすべて切り傷でよかった。きれいな切り口の場合は復活の際にあまり時間がかからない。 骨が粉々になるような打撲傷なら組織再生に時間がかかるのは経験上知っていた。 窒息死や溺死や焼死や餓死の場合は経験がないのでわからない。 挽き潰されてミンチになったり骨まで焼かれて灰になったあと、 それらを広範囲にばら撒かれたらどうなるのだろう。 それでも復活するのだろうが、どれほどの時間がかかるのか想像したくもない。
とにかく、ここにはすぐに死体処理のための人員がやってくるはずだ。 君は一刻も早くこの場を立ち去るべきだと判断した。
33へ進め。

27
君は日差しよけの外套の下で朔月左文字に手をかけながら、ぶらぶらと正門へ近づいた。
ここに来たのが2度目以降ならすぐに44へ行け。
そうでないなら、君にはいくつかの選択肢を選ぶ権利がある。
 
門衛に話しかけるなら24へ進む。
問答無用で切りかかるなら32へ進む。
考えがあり、何もしないで門の前に立ち続けるなら13へ進め。

28
復活は耐えがたい苦痛の中で行われた。
はじめは何も感覚がなかった。君には視力も思考力もなかった。
徐々に無感覚は全身のかゆみにとって代わり、君は悶えた。
かゆみを抑えるために体を転げ回してどこかにこすりつけようとするが、 何かが押さえつけているようで体が動かず、君はさらに悶えた。
次第にかゆみは痛みになった。痛みは激痛になった。
動くと痛みが増すので、今度は動かないように努めた。
だが君の体を覆うじゃりじゃりしたものが容赦なく痛覚神経を責め苛む。
君は泣いた。
これが復活の次第だ。
 
さあ39へ行って目を開けよ。

29
「用事があるのですが」君は言った。
 
「用事なら正門に回ってください。こちらは使用人専用の門ですよ」と男は答える。
 
どう答える?
 
会いたい人がいる、と言うなら40へ進む。
雇ってくれ、と言うなら21へ進め。
問答が面倒になって、この男を殺すつもりなら25へ行け。

30
「あれ、聞いてないの?」君は心底驚いたように言う。「困ったなあ」驚いてはいるのだが、 ニバスの呪力のおかげで笑いが混じり、呆れを含んだ軽薄な声が君の口から漏れる。

「来客があるなど聞いてない」門衛はムッとした表情で答える。
 
「あ、そうなんだ、ということは……へへへ」君はそのまま薄ら笑いを浮かべ、 下種な笑いの演技を続けながら考えをめぐらせる。
すべては蒲生先太を、そして残りの七大委員長を殺すためだ。
その下卑た笑いの仮面の下で、100年かけて凝固し、それでもなお熱を失わない岩漿(ラーヴァ)のごとき殺意がたぎっていると誰が信じよう。
君の復讐心を知るただふたりのうちのニバスは剣の中で笑い、残りのアリオクは君の背後で満足のうめき声をあげた。
 
「あ、そうか」君は機転を利かせる。「そうかそうかそうか。あ、こりゃアまずかったな。へへ」そしてまた軽薄な笑い声を立てた。
 
「何がまずいのかな」門衛は明らかに君を軽蔑しきった口調で問いただす。「訪問先を間違えたとは言わせんぞ」
 
「いやね、訪問先を間違えたッてのも当たらずとも遠からずなわけでして……。 あたしなんかが堂々と正門から来てしまったのがいけなかったんですね。 ホラ、あっち(・・・)の話ですからねえ、裏口からこっそりと訪ねるのがスジってもんでしょ?  やだなあ、話が通ってないのも当然ですよねえ」
 
あっち(・・・)の話?」と怪訝そうに門衛。 「ああ、そっち(・・・)の話か……、あの人の悪い遊びか。お前みたいなやつはよく出入りしてるけど、初耳だぞ、正門から来るなんて」
 
うまくいった。徹底して下種を演じたおかげで、どうやら蒲生に取り入る性欲産業の仲介人として認識されたようだ。
 
「いやまったく、お恥ずかしい話で。まだ新米なんスよ。へへ」
 
「ン……次からは裏に回れよ?」
 
「ええ、ええ、そりゃもう。申し訳ありませんね。うまくいったらおすそわけ(・・・・・)でもいたしましょうか、兄さん?」
 
「やめてくれよ、こっちはいつ変な風に巻き込まれる(・・・・・・・・・・)んじゃないかと冷や冷やしてるんだぞ」
 
「あ、さようで。いや残念、顧客を逃しちまったかな? へへへ」
 
「商売人め。それじゃあ今回は特別に取り次いでやるけど、そうだ、名前は?」
 
42へ進め。

31
君は蒲生に朔月左文字の切っ先を突きつけて笑った。
君も蒲生も100年前と変わらない姿だ。
変わったのは君の心だけ。やさしい生徒会副会長は残忍な復讐鬼と化した。
蒲生は最初から最後までただれた姦淫魔だ。
 
「おひさしぶり」君は言う。
 
蒲生は全裸で、屋敷中が騒ぎだというのにお楽しみの最中だったようだ。 蒲生の背後で鎖につながれた半裸の女が悲鳴を上げた。
 
「蒲生は偽者ではない。人間だ。不老の呪いがかかっている。 が、後ろの女はひとではないようだ。よくわからない」君の剣の中の猫が囁く。
 
「やつが抱いているものが犬の変化だろうがデーモンだろうが知ったことか。 おれはいま嬉しいんだ。水をさすな」君は答える。
 
「失礼した。ご主人」剣が黙る。
 
「おれがわかるな、蒲生」君はゆっくりと蒲生に近づく。笑みが抑えきれないのはニバスのせいではない。
 
「なるほど、いろいろなプレイを試してきたが、どれにも飽きてきたところだ」 蒲生も答えて君に歩み寄る。饐えた精液の臭いがした。「新しい刺激になりそうだ。副会長さん」
 
君は唾を吐く。
 
「アリオク! アリオク! 復讐の時間だ! アリオク!」
 
君は剣を振りかざして叫んだ。
 
16へ進め。

32
不意打ちだった。君は相手が抜刀する前に切りかかり、右のわき腹に剣を食い込ませた。
敵は笑いながらうずくまったが、まだ元気そうなので君は左文字を脳天に振り下ろして殺した。
他の門衛たちは笑いながら死んでいった同僚を見ておののきながらも、勇敢に抜刀して君に打ちかかってくる。 君の剣の腕前はあまりうまいとは言えないが、死ぬことを心配しないでもよい体質と、 最上大業物の朔月左文字と、左文字に焼き付けられたニバスの呪力とが後押ししていた。
君はゲラゲラ笑いながら剣を打ち合い、復讐のために暴力を振るう歓喜に涙した。ひと太刀ごとに力が湧いてくる。
敵方のほうは、戦いのさなかに狂い笑う君に恐れをなし、斬られた仲間が同じく狂笑しながら倒れる恐怖に身がすくんだ。 ひと太刀ごとに足が震える。
やがて君はすべての敵を切り倒した。いくつか傷は負ったが致命傷はない。
傷は痛いが、行動に支障が出るほどではなかった。 一度死んで復活すれば傷はきれいに治るのだが、怪我を治すためにいちいち自殺する道理もない。
君は左文字を振り上げ、鼻歌を歌いながら振り下ろした。
黒い刀身が食い込み、扉の錠前と(かんぬき)が断ち切られる。 扉の向こうで必死に閂をおろしていた男が悲鳴を上げて逃げ出す。
君は蒲生の屋敷地に足を踏み入れる。
45へ進め。

33
君は蒲生の屋敷からほどよく離れたところに空き家を見つけて侵入し、そこで休息を取った。 荒れ放題なので廃屋だと思うが、万が一住居人が帰ってきたら殺すつもりだった。
腹が減っていたが、血まみれの衣服で人通りの多い場所へ行くわけにも行かない。 どこに蒲生の手のものがいるかわからないし、蒲生邸に賊が侵入を試みた話は街にも流れるだろう。 君が見つからなければ賊の死体は仲間が持ち去ったのだと思われるままだろうが、 君が見つかったとき、もし君の死体を見ていた者がいたら君の不死性が発覚するかもしれない。 あとあとのために、それは避けたかった。
君が身を潜めてしばらくすると、待っていたものが来た。
壁――と言うよりただの波形板だが――に開いた窓――というよりただの四角い切り口だが―― から、一匹の黒猫がするりと入ってきたのだ。
猫は音を立てずに着地すると、開口一番、ニャアとも鳴かずに「血(なまぐさ)いのですぐにわかった」 と言ってせせら笑った。
君は手元に会った金属質の小板をニバスに投げつけて応じた。 デーモンはそれを避けきれずに当たり、うめき声を立てる。
はたから見れば動物虐待だが、君がニバスに地獄で100年間受け続けた拷問を思えば、 君の態度は温情あふれるものだといえる。
 
「首尾は」君は言う。
 
「わたしのからだ(・・・)は池に沈めて隠してきた。 泥をかぶせているのでそう簡単には見つかるまい」
 
「蒲生は」
 
「わたしは蒲生とやらの顔を知らない、ご主人」猫が笑う。
 
君は黙ってまた物を投げつける。今度はうまく避けられた。
「だが屋敷の間取りは把握している。 いくつかデーモンに気づかれそうになったので調べていない部屋はあるが」
 
おそらく蒲生はそういった部屋にいる可能性が高いだろう。 君はニバスと協議し、それらしい目星をつけた。屋敷の間取りも頭に叩き込んだ。
 
「問題は侵入方法だな」君は言う。
 
「わたしのからだ(・・・)と同じ方法で入ればよい」猫が笑った。
 
さて、君はさきほど、どういった状況で死んだだろうか?
 
衛士と戦って死んだなら37へ進む。
デーモンに首を切り落とされたなら18へ進め。

34
君はまっすぐに裏門へと近づき、躊躇することなく扉を敲いた。
面通し用の小窓が開く。
 
「誰だ?」
 
扉の向こうから男の顔が覗いた。
 
用事がある、と切り出すなら29へ進む。
小窓から刀を突き出して男を殺すなら25へ行け。

35
君はあてもなく竜尾谷の街を歩き回った。
砂漠に横たわる巨大な竜の死骸によそい付くように広がる竜尾谷は、 遠目に見たときはカビのように薄く感じられたのだが、 実際に歩いてみると広い。
それに、複雑だ。
作業場が自然に拡張して街になっていった過程で、街はでたらめに建物を増やしていったようだ。 あちこちに行き止まりがあり、気づくと同じ場所へ戻ってきてしまったことも何度かあった。 道は竜の死骸に刻まれた階段や坂とも交わって、うんざりするほど立体的でもある。
そこここに張られた日差しよけの布庇(ぬのびさし)のおかげで視界も悪い。
街を冷やすためだろうか、町中を走る導管から定期的に水が吹き出る仕組みになっているのだが、 その水を3回目に浴びたところで君はたまらず悪態を吐いた。
そんな君の姿が可笑しかったのか、傍らで腰を下ろしていた男が邪気のない笑い声を上げる。
君はその男を見る。男は片目を瞑って親指を突き出してみせた。
 
「慣れないと大変だな、旅の人」
 
男はよく日焼けしていて、がっしりとした体格をしている。
竜の解体夫のようだ。
悪い人間ではなさそうだし、竜尾谷には長いのだろうと判断して、 君はこの男に道を尋ねることにする。
 17へ進む。

36
「蒲生さんにお会いしたい」君はつぶやくように答えた。
 
「え?」とまどう門番。「正規の用なら正門に回ってくださいよ」
 
「内密の話だ。話は通してあるはずだ」
 
「そう言われましても……。では、念のため、伺って参ります。 失礼ですがしばらくお待ちください」
 
君の演技が功を奏したのか、門番は小窓を閉めて去っていった。扉越しに走る音が聞こえる。
だが、このまますんなり中に入れるとは限らない。 本当に内密の用事の使者が来る手はずになっているならしめたものだが、そこまでうまくいくとも思えない。  
このまま待ってみるなら43へ進む。
門番が去った頃合を見計らって、扉を強引に押し破るつもりなら8へ進め。

37
君はそのときの状況を思い出す。
 
「塀を飛び越えろというのか」君は一瞬、また道化の冗談かと思う。しかし、すぐに思い直す。 「真上に肋骨があったな。竜の」
 
「さすがご主人は賢い。100年前からそう思っていた」デーモンが嘲笑する。
 
君はニバスに鉄パイプを投げつける。「それで行こう」鉄パイプは避けられた。
 
47へ進め。

38
君は裏通りへ回り、周囲に人影がないことを確認して塀をよじのぼろうと試みた。
しかし、蒲生の屋敷を囲む塀は手ごわかった。
高さは3メートルほどもあるうえ、日干し煉瓦に漆喰を塗ってあるため、手がかり足がかりもない。
竜尾谷の街角にある建材かなにかを使って足場を作ろうかとも考えたが、手ごろなものが見当たらない。 足場になりそうな大きさのものは重くて動かせないし、動かせるものは積み重ねても役に立たないほど 薄い。
結局、かなり離れた資材置き場から長さ2メートルほどの金属質のポールをくすねてきて、 君はこれを立て掛けて使うことにした。
はしご(・・・)代わりにしては長さが足りないし、それ以前に登りにくいことこの上ない。 君はずり落ちながらうまく登ろうと苦戦するが、帯刀している君はバランスが悪く、 何度もポールごと倒れてしまう。もともとあまり運動が得意なほうではないのだ。
ようやくこつ(・・)をつかんできた君は、幾度目かの挑戦でうまくポールを登りきることに成功する。 手を伸ばせば塀の上端をつかむことができそうな距離まで到達したところで、屋敷の見回りが君を発見した。
君は振り落とされ、地面に落ちたところで見回りのの衛士に腹を蹴られた。胃液が逆流する。
うずくまったまま君は腰の左文字に手をかける。君が帯刀していると見て取った衛士は剣を抜き、君を左の肩口から切り下げた。 鮮血が吹き出る。しかし君はかまわずに右手で朔月左文字を抜刀し、低い位置から衛士の鼠径部を突き刺す。
笑いながら倒れて転げまわる衛士の頚動脈を断ち切って君は止めを刺した。
一息つく間もなく、騒ぎを聞きつけて他の衛士が駆けつけてくる音が聞こえる。 君は深手で、満足に走ることも戦うこともできそうにない。
死ぬのはかまわないが、朔月左文字を奪われることだけは避けたい。
どこかに隠そうかとあたりを見回す君の耳元にアリオクが囁く。
 
「剣を投げよ」
 
君は迷わず左文字を放り投げた。
塀の向こうに投げ上げられた太刀は、空中でたまたま鳥に当たり(・・・・・・・・・)鳥に当たったとは思えない軌道で曲がり(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、敷地の奥に落ちた。 ばしゃりと水音がする。池か何かに落ちたようだ。
剣に当たった鳥は何事もなかったかのように飛び去ってゆく。
君は笑った。39階に鳥はいないはずだったので、可笑しかったのだ。
そして死んだ衛士の剣を取り、駆けつけてきた衛士たちに向き合った。 数分で失血死しそうな出血量だが、死ぬ前に蒲生の守りをひとりでも殺しておきたかった。
数合切り結んだのち、衛士一人を道連れとして君は死んだ。
26へ進め。

39
目を開くと、猫の金色の瞳と視線がかち合った。
 
「遅いお目覚めで。もう正午ですぞ、ご主人」猫が嘲笑した。
 
君は身を起こす。不意に意識を取り戻した者の常で、辺りを見回す。
蒲生邸の敷地内だ。庭の片隅。かたわらに池がある。
君の体を覆う砂がどさどさと崩れた。
 
「なんだ、これは」まるで砂風呂だ。
 
「ご主人の遺体が見つからぬようにと配慮して」猫が答える。
 
「それはいいが、頭が出ていては意味がないじゃないか」
 
「どうせ近くに寄って見たならすぐにわかるものなのだ。 遠目で騙しおおせれば充分。ならば呼吸がしやすいようにしたほうがよい。 復活と同時に窒息死でもされたらわたしの徒労が無駄になる」
 
なるほど、このデーモンにしては理にかなった行動だ。
 
「それよりなお重大なことだが、これは砂風呂みたいで愉快ではないか。ハハハ」猫が笑う。 やはりどうあっても、悪意ある冗談のデーモンとしての本質は変えられないのだ。
 
君は猫の言質を無視することにする。「どうなった?」
 
「侵入は気づかれていない」猫が答える。「もともとさきの襲撃で警戒は強まっていたのだ。 そこへご主人の紐なしバンジイの派手な音。そのままにしておけばまず見つかっただろうな」
 
君は頷く。とすれば、君の侵入が見つかっていない現状は、ニバスが手筈通りに働いた証だ。 君が墜死したすぐあとにニバスが反対側の塀で騒動を起こす。 すると敵は、簡単に越えられないはずの塀を飛び越えて静まったなにもの(・・)かよりも、 塀の外側で頑張っているなにもの(・・・・)かを警戒しようとする。 先に落ちたほうは陽動のためのただの物体だと判断するのだ。
もちろんそう思わないかもしれない。賭けだった。だが君は賭けに勝った。
 
「左文字は?」
 
「すぐそこ(・・)に」猫が答える。
 
君は池に手を突きこんで太刀を引き上げる。
 
「ご主人、今のは池の底とかけていたのだが」猫が言うが、君は無視する。 すぐにでも誰かが落ちたもの(・・)の方も見に来るかもしれない。 君は樹木の陰を伝って駆け出した。
12へ進め。

40
「会いたい人が中にいるんです。どうか入れてもらえませんか」君は言った。 なるべく哀れっぽさを出すために、笑みを浮かべぬよう剣の柄から手を離す。
 
「会いたいって言われてもな。誰なんだい?」
 
君は誰に会いたいのだと伝える?
 
女なら48へ進む。
友人と答えるなら20へ進む。
蒲生先太なら36へ進む。
問答が面倒になり、小窓から剣を突き入れて男を殺すなら25へ進め。

41
君は裏門に回った。
裏門は人通りの少ない路地に面していて、門衛も立っていない。扉の大きさも正門とは違う。 警備も相応に甘ければいいのだが、と君は思った。だがもちろん鍵ぐらいはかかっているだろう。
裏門を見張れる物陰でしばらく思案していると、使用人らしき中年の女が裏門に近づくのが見えた。 君が見ているうちに、その女は裏門の扉を敲く。小さな見張り窓が開き、君の距離では聞き取れないわずかな問答のあと、扉は開いた。 女が敷地の中へ入る。扉は閉まった。
きみは、今の機会に押し込んでおくべきだったと悟ったが、もう遅い。
どうするか。
 
次に扉が開く機会を待つなら7へ進め。
扉の前に行って敲いてみるなら34へ行け。
あるいは49へ戻って他の選択肢を試してみてもいい。
 
ただし、すでに一度門番と話をしているのなら、扉を敲くという選択肢は選べない。 あきらめて他の手段を探すこと。

42
「名前……?」君は返答に詰まった。
そこまでは考えていなかった。どうする。適当に偽名でもでっち上げるか。
それとも、こういう場合は店の名前(・・・・)のほうがいいのか。
だがどちらにしても、蒲生にとっては知らない名のはずだ。
聞いたことのない名前を名乗ったら逆に用心してしまうのではないか?
奴は、何らかのデーモンのちからで自分を狙っているものがいると感づいている可能性もある。
名乗るべきか。
しかしもし名乗らなかったら、この門衛は疑念を取り戻し、中へ入れようとしなくなるのでは?
よしんば名乗らぬままで門衛を騙し通せたとしても、肝心の蒲生は名乗らぬ客を迎え入れようとするだろうか?
どうする?
門衛は、口をつぐんだ君をいぶかしげに見ている。考える時間はあまりない。
どうする?
どうする――
 
――ええい糞、やめだ。
君は悩むのをやめた。
なぜおれが蒲生のごときチンカス野郎のせいでおたおた(・・・・)しなければならないのか。
つまりはそういうことだ。
 
「加賀明一が来たとお伝えください」
 
君は答えた。
門衛は頷いて門の中へ去る。
扉が開いた瞬間、君はこのまま強行突破でねじ込もうかとも思ったが、 騒ぎが大きくなって蒲生に逃げられては元も子もないのでやめておいた。
しばらく炎天下のなかで待ちぼうけた君だったが、やがて門衛は帰ってきた。
 
「そんな名前に心当たりはないとおっしゃっている。帰れ」
 
君は拵えが軋むほど剣の柄を強く握り締めた。
爪が食い込んで手のひらの皮膚が破けるのがわかる。殺意が抑えがたい。
 
怒声と共に抜刀し、門衛に斬りかかるなら32へ進め。
復讐の完遂のためにここはあえて退くなら49へ戻り、選択肢を選びなおせ。

43
しばらく待つと、再び小窓が開いた。
顔を覗かせたのは先ほどとは違う初老の男だった。わずかに見える襟元を見るだけでも、 かなり上等の仕立てをした身なりと知れる。不老の恩恵を受けた蒲生ではないのは確かだが、 この屋敷では相応に地位のある人物なのだろう。
 
「失礼だが、どちら様か」初老の男が口を開いた。
 
「内密の話だとお伝えしたはずですが」君は答える。「私がうかがうという話は通っているはず」
 
「それが通っていないのです。当方に手違いがあったのやもしれません」初老の男の視線は鋭く、君を値踏みしているようだ。
 
「それは困る。私も子供の使いではありません。どうあっても蒲生委員長にお会いしなければ」と君。
 
「フム」初老の男はあごをさする。「お名前をうかがってもよろしいかな。主人は連絡の心当たりはないそうだが」
 
君は偽名をひねり出そうとしたが、不自然な間は疑念を呼ぶだろうととっさに判断する。 一番名乗り慣れている名が口をついて出た。
 
「加賀明一」そして続ける。「今はその名で通っている。蒲生委員長にお伝えすればわかると思う」
 
さて、この賭けは吉と出るか凶と出るか。蒲生先太が君の名を聞いて興味を示せば、あるいは招き入れてくれるかもしれない。 まさか100年前に地獄に落とした君が復活しているとは夢にも思うまい。
なんらかの強大なデーモンの霊威を借りていれば話は別だが。
 
「ではお伝えしてみましょう」初老の男は頷いた。「ところで、こちらへの先の連絡はどういった手段で?」
 
「手段ですか」
 
「わたくしどもも、こういったことが二度と起こらぬよう、どの経路で連絡が止まったのか確認しておきたい」
 
「ああ」きみは相槌を打った。「書状が行ったはずだが」無難な答えを返す。
 
「賊のたぐいか」初老の男は小窓の戸をばたりと降ろした。 「その手の連絡は全て専門のデーモンがおこなっている。勉強して来い」
 
君はひとり扉の前に取り残される。失敗したようだ。
蒲生はメイラーデーモンを使って秘密の連絡を扱っていたのだ。
49へ戻って他の手段を試せ。

44
「なんだ、またか。何度も来たって駄目だぞ」
 
君は門衛に行く手をさえぎられた。もう一人の門衛は腕でばつ印を作って苦笑いをする。
 
「こっちも仕事だからな。あんまりしつこいと……」
 
そう言うと門衛は腰の刀に手をかける仕草をした。もう、何をしても入れるつもりはないらしい。
君はどうするか?  
おとなしく引き返すなら49へ戻れ。
不意を突いて斬りかかるなら32へ進め。

45
門をくぐり、蒲生邸の敷地内に右足を一歩踏み出したところで、 君のその右足はくるぶしからすっぱりと断ち切られた。
左腰でニバスが笑う。
 
「愚か者め。ゲートデーモンだ」と路面のひび割れの隙間からアリオクが言う。
 
君はうかつだった。蒲生ほどの実力者が、七大委員長が、 100年を生きながらえてきた魔道の徒が、ちからあるデーモンと契約していないはずがないのだ。 君がアリオクの威を借り、ニバスを使役しているように。
すかさず駆け寄ってきた一人の男が君に切りかかる。君は左腕を上げて防ぐが、あえなく切り落とされた。 痛みで意識が飛びそうになるが、君は片手打ちで左文字を振るい、その男の腿に傷を負わせる。
男は笑いながらしりもちをついた。君も笑いながら立ち上がり、 右足の切断面をあしうらにしているための不自然な挙措でひょこひょこと男に近づいた。
男は座り込んだ体勢のまま君の腹に突きを入れてくるが、 君はどうせもうすぐ死ぬのだからとかまわずに突き返す。
男の喉からふたたび笑い声があがった。 君は力が入らずに致命傷を与えられないので、何度も突き刺してようやく敵を殺す。
敵を殺したころには、いいかげん君も死にそうになっている。
死んだって別にかまわないし、むしろこの痛みから解放されるのなら早く死にたいくらいだが、 朔月左文字が奪われるのは嫌だ。
君は誰にも見つからない場所で死のうと這いずって門から離れようとするが、 何者かが駆けつけてくる音が聞こえる。
万事休すか。
そのとき、君の左腰に吊り下げられていた黒塗りの鞘が、ひとりでに外れた。 だが鞘は路面に転がってもごとり(・・・)という音ひとつ立てず、 かわりにそこにいるのは無音で伸びをする黒猫。
黒猫は朔月左文字の刀身を咥えて持ち上げ、門のそばへと歩み寄る。
器用に重心を咥えているとはいえ、猫とは思えぬその力、 そしてなにより無表情であるべき猫の顔でまぎれもない嘲笑を浮かべる金色の目、 これはまさしくデーモンだ。もと地獄の道化師にして、今は復讐者の剣の精。ニバス。
君はニバスの言いたいことを察して、今度は逆に門のほうへと這い寄る。
君の首が敷居を越した途端、門扉の上部アーチに焼き付けられたデーモンが飛び出してきて君の首を刎ねた。
知能の低い低級デーモンがアーチへ戻る瞬間にニバスは剣と共にするりと門をくぐる。 そしてそのまま敷地の奥へ消えていくが、残念ながら君は死んでいるのでその光景を見ることはない。
26へ進め。

46
詰め寄る門衛に対し、君はだんまりを決め込んだ。
門衛は君に何度も大声で誰何し、詰め所からさらに3人の門衛が君の側へと駆け寄ってきた。
ついに門衛の一人が激昂し、刀の鯉口を切ろうとしたとき、別の1人があることに思い当たった。
 
「こいつ、しゃべれないんじゃないか」
 
「なるほどそうか」激昂した門衛も納得したのか、すぐに刀から手を引く。
 
「あるいは聞こえないのか。でも、なんだってこんなところに」
 
「実入りの多い街じゃなかろうに」
 
門衛たちは君を物乞いだと勝手に決め付けてくれたようだが、 確かに解体人足の集まる竜尾谷では乞食業ははかどりそうにない。君は内心しまったと思った。
 
「まあ、蒲生さんの屋敷なら期待できると思ったんだろう」
 
だが、門衛たちはまたもや勝手に納得してくれた。思ったより悪くない流れだ。
 
「でも、あの人、そういうところ冷たいからな。そういうの、駄目なんだ。 代わりにこれでも取っておけ。もう来るなよ」
 
門衛たちは詰め所から飲み物の入った瓶と軽食の袋を持ち出してきて君に手渡した。
君の計画は失敗に終わったようだ。
 
「うまくいかないな?」
 
くすくすという笑いを含んだ揶揄の声が1人の門衛の後頭部から聞こえた。
薄情者のアリオクめ。君は心の中で毒づく。手助けくらいしろ。
門衛は後頭部をぴしゃりと叩く。緑色の蝿が飛んで逃げた。
アリオクに頼ってはいられないようだ。君はどうするか。
 
腰の刀を抜いて門衛たちに斬りかかるなら32へ進む。
この場は退くなら、離れたところへ行って飲み物と食べ物を地面にぶち撒け、 何度か踏みにじってから深呼吸をしよう。49へ戻って選びなおすといい。

47
君は高さ50メートルの肋骨から落ちて死ぬことにして、その肋骨へと向かった。
蒲生の屋敷の真上に張り出している右側第三肋骨にたどりつくまでには、さいわい怪しまれることはなかった。 血まみれの外套を脱ぎ捨て、かわりに廃屋でくすねた荒織りの麻布で体を覆っていたのが功を奏したようだ。
間近で見る肋骨は高かった。
日陰としての役割からか、肋骨は採掘されることなくほぼ原形をとどめている。
とはいえ、竜の骨は希少金属を含む鉱石の塊だ。 強度を損ねない程度に表皮をはがされており、そしてその作業のための階段が螺旋状に刻まれている。
君は<立ち入り禁止><無断採掘禁止>のフェンスを乗り越えて肋骨に取り付いた。
階段のおかげで楽に登ることができる。ほどなくして蒲生邸の敷地の真上に到達した。
君は下を覗く。高い。
湾曲先の頂上よりも低い位置とはいえ、君のいる場所からでも地面までに優に30〜40メートルはありそうだ。 死ぬのに慣れてきたとはいえ、さすがに足がすくむ。
体のおびえを取り払うため、君は100年分の恨みと生徒会長の死を思う。
足のすくみは止まった。代わりに震える手は恐怖ではなく怒りが原因だ。
君はこの気持ちを抱えたまま飛び降りることにする。
あとはニバスが手筈通りにやってくれるのを信じるだけだ。
君は飛び降りた。

14へ行け。

48
「ここにいると聞いたのですが……その……ひどい目にあっていないか心配で……」 君は今にも泣き出しそうな調子で答える。なかなかの名演技だ。 「蒲生さんの噂はぼくも聞いていますから……」
 
「女か」門番は眉をひそめる。
 
「はい」君は頷く。「将来を誓い合った仲なのですが……」と、これはベタすぎるかと言ってから悔やんだが、
 
「かわいそうに」門番の男はうまく信じてくれたようだ。「でも、俺にはどうしようもないんだよ」
 
「そこをなんとか」君は食い下がった。「一目だけでも会わせてもらえませんか」
 
「無理だよ……」
 
「お願いします。一目だけでも」君はなんとか拝み倒そうと試みる。扉の覗き小窓にしがみつき、 必死を装う演技で懇願した。
「うーん……」門番は目をそらし、しばらく考え込んだ。「会わせるぐらいならやってみてもいいが……」
 
「本当ですか」君は外套の下で左文字の柄を握り、自然な笑みを引き出した。 門番の目にはその表情が喜びだと映るだろう。
 
「で、どんな子なんだ。名前は?」
 
「名前……」君は考えながら答える。「たぶん、ぼくの知ってる名前を名乗ってはいないと思うんですが。 そういう娘ですから……」
 
「本名を名乗ってるかもしれないだろ。いいから言ってみな。 それと、名前を変えていた場合のために、特徴も教えてほしいな」この門番はなかなか親切な男のようだ。 「見つけられないかもしれないけど、そのときはごめんな」
 
君はこの親切な男を最大限に利用しようと思う。「名前はシマといいます。イズミシマ」 どうせ本物の知り合いなどいはしないのだから、君は君の本当に愛する人の名を告げる。 特徴も、今は亡き和泉志麻のものをあげておく。
 
「わかった。探してみるよ」門番は頷いた。 「ただ、普通に働いてる子ならいいんだけど、その……大きな声じゃいえないが、買われてきたような娘もいるから。 その場合、ここに連れてくることはできないけど」
 
「連れてくる?」君は呆然とした。
 
「そりゃあ、お前を中に入れるわけにはいかないからな。会って話ができるだけで我慢してくれよ」
 
もちろん君は、存在しない恋人と話すために砂漠を越えてきたのではない。 この屋敷の中に住んでいる蒲生先太をできる限り残忍に殺すために来たのだ。
この流れは本意ではない。
扉の向こうの門番は今にも去ろうとしている。君はどうするか。
 
門番が去るのを待って扉をこじ開けるつもりなら8へ進む。
それとも、彼が去ったあとにこの裏門をそっと離れるなら49へ戻れ。
あるいは、この男を殺して門を強行突破するつもりならなら25へ行け。 なかなか親切な男だったので、君は彼が死ぬのを残念に思うが、 だいいち蒲生の下で働いていること自体が許せないのだ。

49
君は敷地をぐるりと回って調べてみたが、やはり高さ3メートルほどの壁に途切れはなかった。
入り口と言えるものは、大通りに面した正門と、そこから半周ほどした所にある裏門のみ。
正門には衛兵の詰め所があり、常に2人の帯刀した門衛が控えている。
裏門のほうには門衛は見当たらない。
君はどうするか。
 
堂々と正門に向かうなら27へ進む。
搦手から攻めたいと思い、裏口へ回るなら41へ行け。
人気のないところで塀を乗り越えようと試みるなら38へ進め。
夜になるのを待ってから忍び込むつもりなら11だ。

50
それから蒲生は半日かけてむごたらしく死んでいった。
あとには君と剣と猫と笑いながら死んだ男の断片だけが残った。
こうして蒲生先太は死んだ。
 
彼は生来の姦淫の(サガ)によって身を成し、 生来の姦淫の(サガ)によって滅んだ。
だが、この話には教訓は何もない。
 
君は地下室の鍵を開け、蒲生邸の残党と風紀委員たちと切り結びながら砂漠の39階を渡り、 幾度か死んだ後に潜伏先の貧民街に落ち着いた。
次の復讐の機会が来るまでは読書の時間だ。
復讐を遂げるためには知識が必要だ。そして世界の半分以上は本の中に書いてある。
君はティーンズの道端で拾った本を開いた。
 
『それではみなさんお勉強をしましょう。……』



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